譲渡損失の繰り越し
株式投資の利益(及び損失)が出た場合の確定申告の方法や手続きを紹介します。今回は、「特定口座(源泉徴収あり)」の投資家向けに、譲渡損失を繰り越す方法を取り上げます。
譲渡損失の繰り越しを行う前に確認しておくべきこと
1、あなたの現在の状況を把握する。
そもそも、確定申告は株式投資の税金のため、だけではないです。株の譲渡所得を申告すると、扶養控除・配偶者控除・住宅ローン控除・住民税・国民健康保険税などに影響するかもしれません。
20万円、35万円、48万円など、利益の分岐点がありますが、申告すると、どの項目に影響が出るのか? を把握しておきましょう。「1万円の節税を行ったおかげで、逆に5万円、10万円の増税になった」というケースもあるのでご注意ください。
2、譲渡所得の申告の手間・時間と将来戻る税金を天秤にかける。
株式の確定申告の作業が面倒なため、「特定口座の源泉徴収あり」を選択している投資家はたくさんいます。しかし、手続きに慣れない方が譲渡損失の繰り越しを行うと、かなりの手間と時間がかかることが予想されます。
仮に、2023年の年間損失が1万円であれば、将来戻ってくる可能性がある税金は“たったの2,000円”です。このために、株の確定申告の作業が最低でも2回必要になります。
その損失はそこまでする価値がある金額でしょうか? もともと「源泉徴収あり」で税金をきちんと納めているのですから、2,000円を取り戻すために使う手間と時間を、他のことに使うのもひとつの選択だと考えます。
逆に、「毎年確定申告が必要だから、株の申告も負担にならない」「損失額が大きいから、ぜひとも繰り越しを行いたい」という投資家であれば、積極的に活用すべきだと思います。
3、3年間で損失を取り戻せますか?
↓をご覧ください。
・2021年損失・・・2022年、2023年、2024年繰越可能・・・2025年以降繰越不可
・2022年損失・・・2023年、2024年、2025年繰越可能・・・2026年以降繰越不可
・2023年損失・・・2024年、2025年、2026年繰越可能・・・2027年以降繰越不可
現在、確定申告を行えば3年間、譲渡損失の繰り越しが行えます。逆に言うと、3年のうちに繰り越し額以上の利益が出ないと作業が無駄になるわけです。上をご覧の通り、2021年分の損失は、2025年の利益では相殺できません。2023年の損失は、2026年までに取り戻さないとダメです。
また、譲渡損失の繰り越しの手続きは、利益と相殺するまで毎年行う必要があります。仮に、2023年の損失を2026年の利益で相殺するのであれば、2024年も2025年も譲渡損失の繰り越しが必要になります。
以上の「1」「2」「3」を全てクリアした上で、それでも譲渡損失の繰り越しを行いたいと考えている方は、下をご覧ください。
株の確定申告の手続き
1、株の申告のために用意するもの
所得税の確定申告書(第一表・第二表・第三表)
特定口座年間取引報告書
証券会社で「特定口座」を選択していれば、毎年1月中旬~2月上旬(各証券会社によって異なります)に前年の「収入金額」「必要経費又は譲渡に要した費用等」「差引金額」 「所得金額」等が記載された特定口座年間取引報告書が証券会社から届きます。
株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書(1面・2面)
所得税の確定申告書付表(1面・2面)
これらの書類は税務署でもらえます。プリンタがあれば、国税庁のサイトからダウンロードできます。
2、年間取引報告書の数字を計算明細書へ記入する。
例えば、以下のような特定口座年間取引報告書があれば、計算明細書へこのように記入します。
特定口座年間取引報告書サンプル
・譲渡による収入金額・・・20万円
・取得費(取得価額)・・・30万円
・差引金額・・・-10万円
・所得金額・・・0円
株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書の記入例(1面)
3、計算明細書の数字を確定申告書付表へ転記する
所得税の確定申告書付表記入例(1面)
計算明細書の「所得金額」の金額を確定申告書付表の「①上場株式等に係る譲渡所得等の金額」「②上場株式等に係る譲渡損失の金額」「③本年分の損益通算前の上場株式等に係る譲渡損失の金額」「⑤本年分の損益通算後の上場株式等に係る譲渡損失の金額」のそれぞれに転記します。
譲渡損失の金額ですので、マイナスを表す「△」を付けずに、全て「100,000」と記入します。
所得税の確定申告書付表記入例(2面)
次に、「翌年以後に繰り越される株式等に係る譲渡損失の金額(5+7+8)」に数字を記入します(前年、2年前、3年前に譲渡損失のある方はその金額を追加した金額になります)。
4、計算明細書及び確定申告書付表の金額を申告書第三表へ転記。
所得税の確定申告書第三表記入例(左側)
所得税の確定申告書第三表記入例(右側)
最後に、計算明細書及び確定申告書付表の金額を、申告書第三表へそれぞれ転記します。あとは申告書第一表・第二表を完成させて提出してください。
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